コンテンツまでスキップ

あなたのサイトの目的は? ― AIを困らせないための設計学 #2 数字の向こうにいる“ユーザーの物語”を読む

1. はじめに:数字は、意味を語らない

Google Analytics をはじめ、いま私たちの周りには膨大なデータがあふれている。
PV、直帰率、平均エンゲージメント時間、イベント数、スクロール深度……。
だが、これらはすべて「事実」であって、「意味」ではない。

どれほど最先端の AI が分析レポートを生成できても、
数字そのものから意味が湧き上がってくることはない。

意味は、常に人間側が与えるものだ。

前回の記事
「あなたのサイトの目的は? ― AIを困らせないための設計学 #1」
では、“意図のないサイト”は人間とAIを迷わせるという話をした。

今回のテーマはその続きである。

意図を与えたはずのサイトであっても、
数字を読む側が “意図ではなく表面の変化だけ” を追ってしまえば、
結局AIと同じ迷路に入ってしまう。

数字は、ユーザーの気持ちを語らない。

ユーザーの“気持ち”を読み解けるのは、
データでもAIでもなく 人間の想像力 だけだ。


2. 行動データは「人間の決断の痕跡」だ

分析で見ているのは、無機質なログ時系列ではない。
そこに刻まれているのは、1人ひとりのユーザーの “決断” の連続である。

  • そのページを開いたのはなぜか

  • スクロールするという行動に至った理由は何か

  • 離脱した瞬間、心の中で何が起きていたのか

  • 再訪したユーザーは、何を求めて戻ってきたのか

これらはすべて “心の動き” であり、
サイト運営者が本来向き合うべきものはここにある。

PVの増減は“集客”ではなく、
その裏側には「期待」という感情がある。

直帰率の高さは“悪さ”ではなく、
そこには「想定と結果の不一致」がある。

CV数の増減は“ビジネス結果”ではなく、
その前には「決断のための納得プロセス」がある。

行動データとは、ユーザーの物語の断片である。


3. 良い分析とは、数字の“向こう側”を見ること

良い分析は、正しい計算でも、整った表でも、深いモデルでもない。
良い分析とは、ユーザーの行動から
「この人は何を考えていたのだろう?」
と問うところから始まる。

分析とは “観察” であり、
“仮説” であり、
“物語の再構築” である。

3-1. 文脈を読む

ユーザーがどこから来たかは “物語の始まり” である。
検索キーワードは、ユーザーの“言葉にならない欲求”そのものだ。

3-2. 期待を読む

最初に着地したページは「期待の形」。
期待に合わなければ、行動は生まれない。

3-3. 迷いを読む

ページを多く移動したなら、それは迷いの連鎖である。
迷わせたのはサイトであり、意図の設計である。

3-4. 決断を読む

コンバージョンは“YES”ではなく、
「確かにこれだ」
という納得の積み重ねでしかない。

分析とは、
数字を“人の動き”として読む技術である。


4. AI時代に求められるのは、「意味の通るデータ構造」

AIが進化すると、人間はもう分析しなくても良い——
そう考えているなら、それは誤解である。

AIが扱えるのはあくまで
“意味が取り出しやすいデータ構造” に限られる。

意図が曖昧なサイト、
構造が破綻しているデータ、
ノイズだらけのイベント計測。

これらはすべて AI にとって「意味を抽出できない材料」である。

つまりこれから必要になるのは、

  • 正しい計測設計

  • 正しいデータレイヤー

  • 正しいコンバージョン定義

  • シンプルで文脈が一貫したサイト構造

これらを “AIが読み解ける形に整える技術” である。

ここにこそ
sGTM や CookieKeeper といった“計測基盤の正しさ”
が決定的な意味を持つ。

AI の精度は
基盤設計の思想に強く依存する時代に入っている。


5. よくある「数字の誤読」とその裏にある人間の心理

実際の現場で頻発する“よくある誤読”をいくつか紹介したい。
どれも数字だけを見ていると必ず間違える。

誤読1:PVが増えた=「人気が出てきた」

実際には、
「求める答えがどこにもなく、彷徨っている」
というケースがある。

誤読2:直帰率が高い=「何か問題がある」

実際には、
「期待通りの答えが一瞬で得られて満足した」
という場合もある。

誤読3:CVが落ちた=「UIの問題だ」

実際には、
「ユーザー層が変わっただけ」
というケースが非常に多い。

誤読4:流入が減った=「施策が失敗した」

実際には
「検索意図の季節変動」や「社会状況」が原因
ということもある。

数字は“現象”であり、
“原因”や“意味”ではない。

原因は、常に人間側の文脈にある。


6. AIに任せる部分と、人間が読み取るべき部分

これからの分析の世界は、
AIと人間が明確に役割分担する世界になる。

AIが得意なこと

  • 事実の抽出

  • 相関の発見

  • 異常値の検知

  • パターン分類

  • レポートの自動生成

人間がやるべきこと

  • 文脈の理解

  • 意図の把握

  • 心理の解釈

  • 物語の再構築

  • 計測思想の設計(≒AIの土台づくり)

そして重要なのは、
どれだけAIが進化しても「意味の解釈」と「設計」は人間に残る
ということである。


7. 結論:データの向こうに、人間を見る

AI 時代の分析とは、
データを見て人間を想像する行為 である。

ユーザーは数字ではなく、
意図を持つ生きた存在である。

  • なぜその日その時間に検索したのか

  • なぜそのページに期待して来たのか

  • なぜそこで離脱したのか

  • なぜ、戻ってきたのか

  • なぜ、最終的に決断できたのか

行動の裏側には、必ず「理由」がある。
その理由に触れようとする姿勢こそが、
AI時代における分析者の価値になる。

そして、この価値は
AIがどれほど進化しても失われない。

次の記事では、
この“意図→行動→心理”の読み解きを
より構造的に扱い、
「AIが迷わない計測設計」 を深掘りしていきたい。